「閻魔庁の籔医竹軒」 第六話 南無好女多得

 死んで地獄にきたというのにやたらと忙しい。患者がつぎつぎと訪ねてくる。生前は盆も正月もなく、晩酌をしみじみと味わう暇もなかったが、死んでまで頼られるとは、どうも困ったものだ。地獄で仏という言葉があるのだから、地獄には罪人を救おうする菩薩もいるのだろう。菩薩がいるのなら、説法もするのだろう。ところがどうもそんな気配はどこにもない。たとえあったにせよ、このように忙しければ高遠な教えを聴くことも出来ず、罪とは何ぞ、死とは何ぞと悟るでもなく、ただやたらと働いてむざむざと時を過ごしているというに過ぎぬ。これではなぜ死んだのか分からない。

 生きていた頃を想い出して、何が懐かしいといって、なによりなつかしいのは「時」というものがあったということだ。

   月やあらぬ 春や昔の春ならぬ この身ひとつは もとの身にして 

という歌なぞも、時があるから意味がある。恋しい人がいた頃の昔と、全てを失った今という時の春と、その双方を生きてきた自分というものがあるから歌にもなろうが、時がなければ春もない、昔も今も来年も百年後も区別がないのだから、前も後ろもない、これはどうにも困る。こうしたことがいつまで続くのか・・・竹軒はため息をつきながら、それでももしかしたらまた定家様にお会いできるかも知れないから、その時のために歌でも習っておこうと歌書を開け、墨を磨っていると、後ろに人の気配がする。振り返ると、見慣れぬ男が戸口に立っている。

*

 男はひどく痩せて、青い唇から臭い息を漏らしている。『どうやら腎虚のようだ』竹軒はそう思いながら「何かご用ですか」と訊いた。

「あなた様が竹軒先生でございまするか」

「如何にも私は竹軒ですが」

「始めてお目に掛かります。私は御手代東人(みてしろのあずまびと)ともうしますが、何とかお助けいただきたいと思い、ようやく探し当ててまいりました」

「御手代東人とは、ずいぶん古風な名のように聞こえますが、あなた様は生前、いつ頃の時代においでだったのですか」

「私は聖武天皇の御代、吉野の山で観世音菩薩を念じ奉りて修行三昧の日々を送っていた者にございます」

「聖武天皇・・・ではあなたは奈良の毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)が黄金に輝いていた有様をご存知なのですな・・・」

 竹軒が羨んでそう云うと、男は首を横に振って、

「いいえ、私は大仏の事は噂にしか知りません。あの仏は大きいばかりでさほど功徳があるとは思えませんので・・・私が、頼みにしていたのは新参の大仏ではなく、吉野山の観世音菩薩に願いを叶えてくださるよう、お頼みし、修行していたのでござります」

「・・・左様ですか・・・で・・・あなた様はどのような願い事を観音様に頼んだのです?」

「それはでございます『南無銅銭万貫白米万石好女多得』と念じたのでござります」

「・・・それはまた、とてつもなく欲深な願でござりまするな。銭を万貫、白米を万石手に入れたいという願いすらも到底望むべくもないものですが、その上、多くの女を手にしたいという欲望を抱くとは・・・・どうも途方もないお方ですな・・・そのような願いを観世音菩薩が叶えてくれるとお思いなのですか」

 竹軒があきれ果ててこう云うと、

「何の、世の豪族たちは万石どころか数十万石を自由にして、十指に余る女を囲っておりまするから、決して途方もないことではござりませぬ」

「・・・ふん・・・しかし、そのようなことは私には縁のない話ですからお聞きしてもどうしようもありません。何かの御経に、『足ることを知らば 貧といえども富と名づくべし・・財あるも多欲なるは これを貧となづくべし・・もしも財業に豊かなれば諸苦を増すこと、竜の多首なるは酸毒増すがごとし』とありますが、あなたのように欲深であったら、たとえ願いが叶えられたとしても辛苦が増すばかりでしょうな」

 と竹軒が云うと、男は意外にも素直に肯いて、

「まさしくその通りでござります。私の願いはそのまま叶えられました。しかしそれ故に、死んで後まで辛酸を嘗めて居るのでござります」

 と云うので竹軒は訝しく思ってよくよく聞いてみると、こんな話だった。

*

「私が修行を終えて山を下りてゆくと、粟田朝臣という長者の家がありました。大勢の人々が集まって何事か騒いでいるので、門の側の男に、『どうしたのですか』と聞いてみると『長者の娘が突然病に罹り、多くの医師にみせたが病は重くなるばかりで死に瀕している。こうなったら修験者か効験あらたかな僧侶に祈ってもらうしかないと、諸寺の僧に祈祷してもらったが少しも良くならない、困り果てているところだ』そう申すのです。そこでためらうことなく屋敷入って長者に面会すると次のように申しました。

『私は十五年の間、吉野の霊山に籠もって修行三昧の日々を送って悟りを開いた者である。聞けば娘が病に苦しんでいるという。私が祈ればたちまち快癒しよう』

 長者は藁にもすがる思いだったので、どうかお願いしますと頼みました。そこで私が祈ると、娘はたちまち癒ったのです。」

「・・・まさか、信じられませんな。生薬も使わずに、祈っただけで瀕死の人間が治りましょうか」

 竹軒がこう云うと、男は、

「まったく嘘偽りではありません。それどころか、娘は私をひと目見て愛慾に囚われ、その夜、寝所に忍び込んで来たので、私は娘と睦み合ったのです」

「・・・何と、あなたが夜這いしたのではなく、病が癒えたばかりの娘が夜這いに来たというのですか」

「いかにも左様です。私は娘を抱きながら、観世音菩薩様への祈りが通じたのだなと思いました」

「・・・」

「それから後は、娘は毎夜私の寝所に忍んでくるようになり、私共は愛慾の海に溺れるように、朝まで抱き合って過ごしたのでございます。しかしこうしたことはたちまち家の中では評判になりますから、間もなく長者の耳に入りました。長者は自分の目で確かめようと、夜、娘の寝所に忍び込んで板戸の間から覘きますと、いつものようでございましたから、烈火の如く怒って私を捕らえ、邸の牢獄に繋ぎ、厳重に見張りを立てたのです」

「さもありなん」

「娘は悲しんで夜になると忍んできて、格子の間から手を出して私を抱きしめて嘆き悲しみました。そして銭を出して番人に『私を牢の中に入れて下さい』と頼みましたので、地獄の沙汰も金次第、のことわざ通り、すんなりと鍵を開け、娘を中に入れてくれたのです」

 竹軒は男の話を聞きながら、同様の話が伊勢物語にもあったようだなと思った。確か、男が女の許に通っていたが、これを知った兄が通い路に見張りを立てたので、逢えなくなって、男は歌を詠んだとある。

 

  人しれぬ わが通い路の関守は よひよひごとに うちも寝ななむ 

 業平は歌の力で番人の心を開いたのだが、男の話では、金で鍵を開けさせたという、

「どうもあなたの話は感心しませんな」竹軒が云うと、

「それは思い違いでござります。歌よりも銭の方が効力がありますのでな、医者も薬代を払わぬ患者より、黄金を包んでくれる患者を大切にしましょうぞ。番人も同様、その都度娘から銭をもらって鍵を開けたので、番人は大いに得をしましたし、私共も思いを遂げることが出来たのですから、金の力はこの世で一番でございます」

「・・・」

「ともかくそれからというもの何ヶ月の間、夜になると娘は私と牢の中で過ごしました。しかしこうしたことが人の噂となり、とうとう長者の耳に入りました。そこで使用人共は『今度こそ長者は彼奴(きゃつ)を足腰立たぬまで打ち据えて追い払うであろう』と考えたのですが、思いの外、長者は『娘がそこまで男を求めているのなら夫婦にさせてやるより仕方があるまい』とこう申して、私を許し、夫婦にしたのです」

「・・・何と何と」

「しかも長者は年老いておりましたし、私が誠実な者であると知ると、全財産を私に託したのです」

「・・・ということはつまり、あなたが観世音菩薩に願を掛けていた『南無銅銭万貫白米万石好女多得』という大層な欲望も満たされたというわけですな」

「・・・確かに左様でござります」

「ふむ・・・しかしあなたはどうも、妙な方だ・・・それに何か奥歯に物が挟まったような口ぶりですが、何か不満でもあるのですか」

「・・・不満ではござりませぬが、実は、私の願いましたのは『南無銅銭万貫白米万石好女多得』というものでした。そして『銅銭万貫白米万石得』という願いは叶えられましたが、『南無好女多得』という願望はまだ達せられては居らなかったのです」

「では、あなたは長者の娘と夫婦になりながら、他に女が欲しいと念願していたのですか」

「いいえ、私の妻は申し分のない女でしたから、他の女が欲しいとは少しも考えませんでした。しかし私が吉野の霊山で願ったのは『南無銅銭万貫白米万石好女多得』というものでしたから、もしやその願いがまだ生きているとしたら、別の女が現れることになる、そうなれば妻は悲しむであろうから、これは困った事だと、内心恐れていたのです」

「それはそうでしょうとも」

「と、思いも寄らぬことが起きました。数年たったある時、妻は重い病に罹ったのです。祈りも薬も何の効き目もなく妻は臨終の床につきました。私は妻を心から思っておりましたから枕辺で己の無力を嘆き、声を上げて泣きました。妻はその有様を見て、実の妹を枕辺に呼び、

『私の心残りはこの人を一人で残して行かねばならぬことです。私が死んだら、あなたが身代わりとなって妻となり、世話をしてくだされ。頼みましたよ』こう遺言して息を引き取ったのです」

「・・・」

「喪が明けると、妹は遺言通り私の妻となり、姉にも増して愛してくれましたので、とうとう満願を遂げたという次第です」

「・・・ふーむ、何とも不思議というべきか、男冥利に尽きる話でござりまするが、しかし、どうも分かりませんな・・と云うのも、それほどに幸運な男が、何故にそのようにやせ細った惨めな姿でここにおいでになったのか」

「さ、そこでござります。私も生きている間は、この世に幸福な者と云って私に優る者は他にあるまいと思い、世間の人々も心底羨んでおりました。しかしやがて妹の妻も死に、私も後を追うようにして死にますと、思い掛けないことが待っていたのです」

「・・・待っていたとは・・・」

「それは、先に死んだ姉と、後から妻になった妹と、二人が私を待ちかまえていたのでござります。二人は私を毎日毎晩攻め立てますので、私は精も根も尽き果てて、息絶え絶えになってしまいましたが、逃げようとすると、姉が私の胸ぐらを掴まえて、

『あなたはこの私があれほどにあなたを思って死んだというのに、浅はかにも妹に心を移してしまったのですね』

 と涙を流しながら愛撫を迫ります。私は、

『お前と私は確かに過ぎし現世では夫婦として毎晩睦み合い、他の者が妬むほどの仲であったが、お前が臨終の床に妹を呼んで“私が死んだらお前が夫の妻となりなさい”と遺言したので、その通りにしたのだ。それが地獄に来てみたら二人が待ちかまえていたとは、どちらを妻として扱ってよいのか、私にも分からぬ』

 と云うと、姉はむしゃぶりついて

『私はあなたとは二世を誓い、決して離れはしまいと神仏に願いました。ですから、現世の命は尽きても、ここでふたたび出会ったからにはもう決して離すものですか・・・小式部内侍の歌にもありましょう・・・死ぬばかり 歎きにこそは歎きしか 生きて逢ふべき 君にしあらねば・・・私は死んでしまったので生きては逢えなくなってしまいました。そして悔しいことに、あなたと妹が毎夜睦み逢う様をただ空しく眺めては己の浅はかさを後悔し、怨み悲しみ、声を上げて泣きながら、神仏に“速くあの二人が地獄に堕ちてくるように”と願い続けていたのです。そうしてその願いが聞き届けられ、まず、妹が死んであなたと別れ、それからとうとうあなたもここにおいでになった。ですから、今、あなたが地獄に居られるのは、誰の力でもありません。この私のお陰なのです。それを、どうしてあなたをむざむざと妹に渡せるものですか、生きている時は愚かだったのであのような馬鹿な遺言をしてしまいましたが、これからは未来永劫、決して寸時も離しませんよ』

 と髪を振り乱して絡みつくので、私はほとほと弱り果てて、

『お前が私を地獄に引っ張り落としたことを感謝する気持ちには到底なれないが、そこまで想ってくれるとは、矢張りありがたい。他の者の目には垂涎の的であろう。しかし、二人の妻を同時に愛することは出来ぬ。それに私も若者ではないのだから、せめて十日に一夜の逢瀬にして欲しいのだ』とこう申しますと、妻は、

『いいえ、決して許せません。そのような暇を許せば、あなたはその間に妹と戯れようという魂胆なのでしょう・・・もはや死んだからには姉でも妹でもありません、あの女との縁を切って、私一人を妻にしてくだされ』と迫ります。

 私がため息をついて、それでも何とか姉を満足させると、姉の寝ている間に妹が忍び寄ってきて、熱い吐息を私に吹き付けて、

『姉の言い分ばかりに耳を傾けて、この私をお見捨てになるおつもりですか。姉はあの通り、餓鬼のような愛慾に囚われて、最後にはあなたを取り殺す積もりなのです。どうか私と逃げて下さい』と首にしがみついて囁きます。

 私が口ごもっていると妹は身を揉んで私をつねり、

『あなたが姉と契っている間、私がどのように苦しい思いで待ち焦がれているか、ご存知ですか・・・弁内侍の歌に・・・逢ふまでの 命を人に契らずは 憂きに堪へても 得やは忍ばん・・・とありますように、私は心が塞がれて、死にそうな気持ちなのです。でも、既に死んでいるので、死ぬことすら出来ません。ああ、苦しくて、胸が張り裂けそうです。思いを遂げられぬ苦しさは業火に焼かれるのと同様です。どうか、姉が寝ている間に、私を背負って逃げて下さりませ』

 とこのように申してさめざめと泣くのです。と、その泣き声に姉が目を覚まし、妹の髪をつかんで引きずり回しますので、妹は悲鳴を上げて抗って、今度は負けじと姉の髪をつかんで引き抜こうとする、こうして二人は毎日毎晩二匹の蛇のように憎み合っていますので、私は間に挟まれて身動きも出来ません。どうかこの苦しみをお察し下さい」。

*

 竹軒は聞いてあきれ果てた。そのような有様で千年あまりの間、よくもまあ生きていられたものだ。いや、死んでしまったのだから、生きていたとは言えまいが、ともかくこれもまた拷問というものであろう。

 ひとつの経に『もろもろの欲染(むさぼり)において まさに厭いを生じ、勤めて無上涅槃の道を求むべし』とあったが、この男もそうした苦しみから逃れたいという思いに目覚め、私のところに来たのであろうかと、竹軒はしみじみと男の業の深さを思い、その欲望から逃れたいという願いも分かるような気がしたのである。

 ところが、男の願いは竹軒の想像とはまるで逆だった。驚くべきことに、男は竹軒に次のように述べたのである。

「私の今の精力では、到底あの二人の女を満足させることはできそうにありません。そこで竹軒先生に折り入って、是非ともお願いしたいと申しますのは、何を隠しましょう、この私を、昔の若者のように、旺盛な精力の男にしていただきたいのです。もしもその願いが遂げられれば、あの二人も満足し、諍いも静まりましょう」

「・・・なんと、あなたは・・・そのためにこの私のところに来たのですか」

「如何にも左様でござります。と申しますのも、私が知り得た知識では、八味地黄丸という薬こそ、その道の特効薬だというではありませんか。ジオウにサンヤク・クチナシ、これにブクリョウ・タクシャを入れ、更にボタンピ・ケイヒに、ブシ末を入れると出来上がるとか。これさえあれば不老不死、房事にも精を出すことが出来ると聞きました。ですから、是非とも、その八味地黄丸をご処方いただきたいのです」

「・・・黙って聞いて居れば勝手な事を申される。あきれて物が言えぬとはこのことでござるぞ。そもそも八味地黄丸という方剤は、腎の陽気と陰気が双方とも衰えた者に使う薬でござる。老化が進み、冷えや痺れ、腰痛や膝の痛み、あるいは神経痛、頻尿などに用いるのが常道。無論、時には陰萎に用いることもないではないが、あなたが望むような効能は到底得られるものではありません。それより、過度の房事は命を縮めまする。これまでにさんざん思いを果たしたのですから、この後は養生に努めるのが肝要ですぞ」と竹軒が戒めると、男は、

「いえいえ、とても養生などしている暇はござりませぬ。先生は八味地黄丸の効能をあまりに低く評価されておりまする・・・もし普通量で効かぬなら、三倍の八味地黄丸をご処方下され。さすれば、姉、妹、だけでなく、私もまた至福の時を持つことができまする。これこそ、一石二鳥ならぬ、一石三鳥でござりませぬか。どうかどうか、その霊薬をご処方いただきたい。無論、お礼は満貫の銭、万石の白米をもっていたしますほどに、なにとぞよろしくお願い申し上げます」

 男はさもしそうな顔をして竹軒の顔をのぞき込んでいる。竹軒はあまりの事に声もなく男を見つめていた。このような男を「馬鹿につける薬はない」と申すのであろう。だが、ここまで阿呆となると、どうして良いやら・・・手に余る・・・竹軒は誰かこの男を追い払ってはくれまいかとそう思いながらため息をついた。

*

 と、不意に大きな影が現れたかと見る間に、巨大な頼光の鬼が現れた。

「面白い話を聞いて、先生も気晴らしにはなったろうが、銭で愛慾の薬を手に入れようとは、到底許されることではない」と頼光の鬼は笑って、男を爪に引っかけて空中にぶら下げると、

「閻魔大王も忙しかった故、千年あまりお前を忘れていたが、よくよく調べてみれば、貴様は生前、吉野山中に籠もって修行した行者であるにもかかわらず、二人の女を妻として使用人をこき使い、金銀を貪っていたと記されている。その罪だけでも血の池地獄は免れぬところだが、ましてここに堕ちて来た後にも、未だに愛慾が尽きぬとは、どうにもならぬ愚か者だ、と閻魔大王様は大層お怒りになられ、この俺に『普受一切苦悩地獄へ落としてしまえ』と命じられたのだ、さあ覚悟しろ」

 と嘲笑って、泣き叫ぶ男を紅蓮の炎の中に投げ込んだ。男は悲鳴を上げながら燃えさかる炎の中に消えて行った。

 普受一切苦悩地獄にひとたび堕ちた者は、炎の剣で皮を剥がれ、骨を切り裂かれ、皮と肉と骨を並べて灼熱の火で焼けただれた地面に敷き、何億年という間苦しみ悶えなければならない。僧侶や修験者でありながら婦女子をたぶらかし、情交をほしいままにし、また、金品をもって誘惑した者たちはこの地獄に堕ちる。御手代東人もこうした悪行の故に堕とされてしまったのだ。

<第六話 終わり> 付記・この話は「日本霊異記」上巻三一『慇懃に観音に帰信し、福分を願いて、以て現に大福徳を得し縁』をモチーフに創作したものです。<作者記>